裁判用語解説

裁判で使われる言葉の中には、まったくイメージできないものや、そうでなくても日常の意味と異なるものなどがあります。裁判の場でとまどうことのないように、重要な言葉をいくつか選んで解説してみました。

民事訴訟法の教科書からすると正確ではない表現が多々あると思いますが、だいたいのイメージをつかんでいただくことを目標としていますのでご容赦ください。なお、できるだけ最初から順に読んでいただく方が理解しやすいものと思います。

事実

裁判の場で「事実」という言葉が用いられるとき、それは、「当事者の認識」という意味で使われることが多いと思います。一方当事者の認識に過ぎませんから、もちろんそれが真実とイコールとは限りません。

裁判をやっていて、裁判所から、「原告は○○についての事実を主張してください」「被告から○○についての事実主張がありました。」などといわれると、一瞬ドキッとしたり、あるいはムッとしたりすることがあるかと思いますが、当事者の認識という意味に考えて、落ち着いてください。

↑ページの先頭に戻る

主張

「事実」とセットで用いられる言葉として、「主張」があります。これは、当事者による(一方的)言い分のことです。何でもありの世界と考えてもいい過ぎではありません。「私は、突然道を聞かれた老人に、その場で1000兆円をくれてやった」という言い分も、それが一方当事者の認識した事実として語られる以上、主張としては"あり"です。これを立証するのは難しいと思いますが。

「訴状」、「答弁書」、「準備書面」という、裁判(訴訟)をすれば必ず耳にするこれら3つの書面(これらの書面については後ほど説明します)はいずれも、「主張」が文字化されたものと考えてもよいでしょう。したがって相手方が出してくるこれらの書面の一言一句にあまり熱くなる必要はありません。主張とはもともと一方当事者による一方的な(勝手な)言い分に過ぎないのですから。

↑ページの先頭に戻る

証拠

おなじみの言葉です。あまり一般的な意味と変わりません。上で説明した「主張」を裏付けるために当事者が提出する資料です。

当事者の提出する証拠に基づいて、当事者の主張する事実の有無を、裁判所が判断する、というのが訴訟の基本構造といってもよいと思います。

↑ページの先頭に戻る

甲号証、乙号証(こうごうしょう、おつごうしょう)

原告が提出する証拠が甲号証、被告が提出する証拠が乙号証です(※)。具体的には甲1号証、乙1号証から始り、証拠が増えるごとに甲2号証、甲3号証などと番号が増えていきます。この番号に上限は特にありません。甲10000号証というのもあり得ます。

裁判に証拠を提出するときは、証拠として提出する書面等の紙面の肩(上)の辺りに、「甲1号証」などと筆記またはスタンプを押します。

※これは民事裁判の話で、刑事裁判では甲、乙の意味が民事とは異なります。刑事裁判において訴える側は常に検察官です。刑事裁判の甲号証、乙号証はいずれも、一方当事者である検察官の提出する証拠です。甲号証は、検察官によって提出される証拠のうち客観的な証拠や被害者や第三者の供述にもとづく証拠、乙号証は、検察官によって提出される証拠のうち被告人の供述に基づく証拠が主です。

民事と刑事の違いとしてもうひとつ、民事裁判では訴えられる側を「被告」といい、刑事裁判では「被告人」といいます。

↑ページの先頭に戻る

立証(りっしょう)

「証拠」によって「事実」ないし「主張」を裏付ける当事者の行為です。知っていただきたいのは、立証ができなかったという場合にそれが意味することです。例をあげて説明しましょう。

AさんとBさんとが争っている裁判で、Aさんが、「○○という事実があった」と主張したとします。この裁判では○○という事実があったかそうでなかったかが最大の争点とされました。Aさんは、○○という事実があったということを裏付けるために、さまざまな証拠を提出して立証を行いました。

裁判が終わり、判決が言い渡されました。判決書に書かれていたのは、「○○という事実があったことを証拠によって認めることができない」というものでした。Aさんの立証は失敗したのです。Aさんは、裁判所は「○○という事実は無かった」という判断を下したものと思い、落胆しました。

しかしそれはちょっとだけ違います。この判決の意味するものは何でしょうか。それは、文字通り、「○○という事実があったということは認められない。」ということです。それ以上でもそれ以下でもありません。

何をいいたいのかというと、裁判所は、「○○という事実が無かった」と断定しているわけではないということです。「○○という事実は、あったのか無かったのか分からない、五分五分だなあ。」という場合に、それで「あった」という立証ができたという扱いはしないことにしよう、というのが裁判のルールです。

したがってそのルールに従う限り、立証が失敗すれば、○○という事実があったことは認められなかったことになるとしても、それを超えて○○という事実が「無かった」ということまで裁判によって断定されたことにはなりません。

↑ページの先頭に戻る

訴状、答弁書、準備書面

「訴状」は、原告の第一発目の主張を書き連ねた書面、「答弁書」は、訴状に対する被告の認否(次の項で説明します。)及び被告の側からの1回目の主張が記された書面です。「準備書面」は、原・被告が訴状・答弁書に引き続き主張を補充したり反論をしたりする書面です。

これらの書面はいずれも「主張」であり「証拠」ではないという視点が大切です。すなわち、準備書面でもって訴状に書かれた主張を「立証」するというような関係にはないということです。訴状も答弁書も準備書面も、あくまで立証「される」側の資料です。これらに書いてあることがそのとおりといえるのか否かは、証拠、立証によって決まることです。

↑ページの先頭に戻る

認否(にんぴ)

原告が訴状において主張した事実について、「認める」「否認する(認めない)」「知らない」のいずれかの態度を被告が示すことをいいます。「知らない」を「不知(ふち)」といったりもします。答弁書等において明らかにします。また、事実としてくくれない「評価」(例えば「~が相当である」など)については、これに異議があるときは「争う」という態度を示すことになります。

証拠によって証明しなければならない事実は、当事者間に争いがある事実です。したがって被告が「認める」という認否をした事実については、証拠によるまでもなくその事実はあったものとして扱われます。立証が不要になるということです。

裏返せば、認否によって、どの点に争いがあるのか(争点(そうてん))が明らかになり、この点に絞ってお互いが立証をしていけばよいということになります。

したがって「認否」は、裁判手続の効率化、迅速化に欠くことのできないステップといえます。

↑ページの先頭に戻る

陳述書(ちんじゅつしょ)

陳述書とは、証拠のひとつで、手紙のような体裁の、ことの経緯や状況などが記された書面です。陳述書に書かれている内容は、訴状や答弁書、準備書面などに書かれている内容と似ています。

しかしながら、これらの書面と陳述書の性質はまったく異なります。例えば、訴状に「太郎は次郎に100万円を貸し渡した。」と記載された場合、それは主張であり、証拠によって立証される対象となります。他方、「太郎は次郎に100万円を確かに貸し渡したのです。」と記載された書面が陳述書として提出された場合、それは証拠であり、立証の一材料という立場に回ります。

準備書面などの主張が書かれた書面と陳述書とは見た目の内容は似ているけれども役割がまったく異なるということを知っていると、例えば裁判所から「○○についての陳述書を提出してくれませんか。」などといわれたとき、「その点についてはもう準備書面で書いたじゃないか?」などと悩むことはなくなります。

陳述書は主張を裏付ける証拠ですから、書かれてあることが信用できるかできないか、というような目で見られます。書かれていることが具体的で、描写が詳細で、情景が映像のように目に浮ぶような陳述書はよい陳述書といえます。

先の例の場合、「太郎は次郎に100万円を確かに貸し渡したのです。」などと結果だけが陳述書に書かれていても、ほかに何も書かれていなければ、何の判断材料にもなりません。貸している方はそう言うだろうよ、といわれてお仕舞いです。太郎と次郎が知り合った経緯、太郎と次郎それぞれの年齢、職業、家族構成、100万円を貸すことになったいきさつ、どうやって100万円を用意したのか、100万円を貸した現場の状況(第三者も含めて誰がどこにいて何をしていたか、誰がどういうことを発言したか、そのときの表情、それを聞いていた人の様子等)などを詳細に記述してはじめて、この陳述書が証拠として力を持ちはじめます。

↑ページの先頭に戻る

期日(きじつ)

裁判などが開かれる日時です。「次回期日は○月○日○○時○○分に○○号法廷において行う」などという使いかたをします。

期日にはいくつかの種類があります。「口頭弁論(こうとうべんろん)期日」「弁論準備期日」「和解期日」「証拠調べ期日」「判決言渡し期日」などです。それぞれ手続の性質が異なります。「弁論」は「主張」に、「証拠調べ」は立証に対応します。「和解」については後ほど説明します。

「口頭弁論」、「証拠調べ」の各期日は「法廷」で行いますが、「弁論準備」、「和解」の各期日は裁判所の「準備室」「和解室」などと呼ばれるふつうの小部屋で行います。したがって、当事者としては、次回期日がどういう性質の期日かをよく聞いておくと安心です。「次回は弁論準備期日に移します」などと裁判所が言ったら、次回期日には法廷に行っても誰もいません。この場合、自分の事件の担当部(「民事3部」など)のある場所に行かなければなりません。この場所が裁判所の建物のどこにあるのかわからなくなったときは、裁判所には受付や案内板がありますから、それらを利用しましょう。

なお、訴訟(意味については後述します。)を起こされた被告が、答弁書を裁判所に提出せずに第一回口頭弁論期日を欠席すると、原則として原告の言い分どおりの判決が言渡されてしまいますので注意しましょう。逆に、答弁書を第一回口頭弁論期日までに裁判所に提出しておけば、第一回口頭弁論期日に限っては、欠席することができます。被告は自ら望んだわけでもないのに裁判に付き合わなければならない立場にあることを考慮し、第一回口頭弁論期日に限り、答弁書の「擬制陳述(ぎせいちんじゅつ)」といって、被告が実際には法廷にいなくても答弁書のとおり法廷で主張したことにする扱いが認められているからです。ただし出席したほうがよいことは確かです。

これに対して、原告は必ず出席しなければなりません。

最後に、民事事件の「判決言渡し期日」には、当事者は必ずしも出席する必要はありません。当事者がすることが特にないからです。圧倒的大多数の判決が、当事者のいない法廷で言渡されています。

↑ページの先頭に戻る

出頭カード(しゅっとうカード)

期日に裁判所に行ったら、裁判所に備え付けの「出頭カード」に署名します。カードといってもA4などの紙です。期日が法廷の場合、法廷の中にあります。弁論準備期日などで行った場合は、担当部のカウンターに置いてあります。訴訟ではなく調停の場合は、裁判所によって出頭カードの置いてある場所はまちまちです。受付で聞きましょう。

↑ページの先頭に戻る

和解

裁判上の「和解」とは、当事者の「双方」が歩み寄り、事件を解決することです。和解により事件が解決すると、判決は出ません(出す必要がありません)。その代わり「和解調書」というものが裁判所によって作成されます。「和解調書」もこれにもとづいて強制執行などができるという点で、判決と効果はかわりません。

和解を語る上では、当事者の「双方」が歩みよらなければ和解とはいわないという点が重要です。これに対して、交通事故の事件などでよく耳にする「示談(じだん)」は、話し合いによる解決という点では「和解」と異なりませんが、一方だけが歩み寄って事件を解決することをも含む言葉です。

↑ページの先頭に戻る

訴訟、調停

「訴訟」とは原告の「訴え」によりはじまり(目に見える現象としては「訴状」の提出)、「判決」言い渡しによって終わる、いわゆる一般に裁判といえばイメージされているもののことです。主張を戦わせ、立証し合って、、という硬い手続です。

それに対して「調停」とは、話し合いによる解決をするためのやわらかい手続です。厳密な意味での立証もいらなければ、判決も出されません。

事件の種類によっては、訴訟をやる前にまず調停をしなければならないと決められています。調停でまとまらなかった場合にはじめて訴訟に移るということです。「離婚」事件などが典型です。これを「調停前置(ちょうていぜんち)」といったりします。

調停の場合、通常、弁護士などの調停委員2名が世話役になります。

離婚などの家事調停は「家庭裁判所」、それ以外の一般民事調停は「簡易裁判所」において行われます。

調停の場合、調停を申し立てた側を「申立人」、申し立てられた側を「相手方」と呼びます。自分が調停を申し立られた側の場合、「自分なのに相手方」となり、何だかややこしいですね。

↑ページの先頭に戻る