その4ー 請求の原因に対する認否
請求の原因とは
請求の原因とは、「請求の趣旨」が成り立つための根拠となる事実のことです。
例えば、請求の趣旨が「被告は、原告に対し、○○万円を支払え」というものであれば、請求の原因は例えば、原告が被告にお金を貸した事実や、ものを売った事実などが記載されることになります。
請求の原因に対する認否とは
請求の趣旨に対する認否とは、請求の原因として訴状に書かれている1個1個の事実に対して、
認める
認めない(否認する)
知らない(不知)
のいずれかの態度を、被告が答弁書で示すことです。
「不知」は「ふち」と読みます。
請求の原因に対する認否は答弁書のメイン
請求の原因に対する認否は、答弁書作成において一番重要な部分です。じっくり時間をかけてください。
といっても、ある事実を認めるのか、認めないのか、それとも知らないのかは、考えてどちらかに決めるものではなく、あなたの認識にしたがえばよいだけです。
時間をかけろといっているのは、細かく認否しろ、ということです。
例えば、請求の原因として「Aは、平成○年○月○日○時○分頃、カフェ△△において、Bに現金200万円を手渡した。」と書かれていたとします。
この請求の原因に対する認否をするときは、ほんとうにAだったか、ほんとうに平成○年○月○日だったか、ほんとうに○時○分頃だったか、ほんとうにカフェ△△においてだったか、ほんとうにBにだったか、ほんとうに現金だったか、ほんとうに200万円だったか、ほんとうに手渡しだったか、というように、文章を細分化できるだけ細分化し、その一個1個ごとにあなたの認識と照らし合わせる作業をしなければだめです。
その結果、200万円という金額以外については認めるという場合は、請求の原因に対する認否は次のようになります。
Aが平成○年○月○日○時○分頃、カフェ△△においてBに現金を手渡したことは認め、手渡した現金が200万円であることは否認する。
○×△を訴状に書き込むとよい
おすすめは、鉛筆を片手に訴状の請求の原因を読みながら、訴状に、
認める部分は○、
認めない部分は×、
知らない部分は△、
というようにひたすら書き込んでいくことです。
それが一通りできてから、その鉛筆書きを見ながら、請求の原因に対する認否を書いていけば効率がいいです。
ちなみに、訴状はあなたさえよければ鉛筆やペンで書き込みしてもまったくかまいません。
訴状の項目立てに合わせる
訴状の請求の原因が次のように項目立てされていたとします。
第2 請求の原因
1 原告と被告との婚姻関係
2 原告夫と被告との不貞行為
3 原告の被った精神的苦痛
このような場合は、請求の原因に対する認否も、次のように項目立てするとうまく書けます。
第2 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1項(原告と被告との婚姻関係)について
2 請求の原因2項(原告夫と被告との不貞行為)について
3 請求の原因3項(原告の被った精神的苦痛)について
このように、ただ単に「請求の原因3項について」と書くよりも、それに加えて(原告の被った精神的苦痛)という請求の原因の3項の内容を書いてあげた方が、読む方は訴状と照らし合わせる手間が省けますので、裁判所にとって読みやすくなると思います。
これに限らず、裁判所によく読んでもらうにはどうしたらよいか、ということを常に考えると、書き方に自分なりの工夫ができたりするものです。
認否の対象を特定する
「請求の原因に対する認否」の項目立てが済んだら、実際に認否を書いていきます。
その際、請求の原因が1段落でかつ1つの文章でできていれば簡単なのですが、そうでないことが普通です。
そういう場合は、どの部分を認否しているのかが分かるようにします。
例えば、第1段落全体を否認するときは、「第1段落については否認する。」と書きます。
例えば、「被告は-途中省略-執拗に誘ったが、原告夫に断られると-途中省略-不貞に及んだ。」という長い長い文章が第2段落に書かれていた場合は、
第2段落のうち、「被告は」から、「執拗に誘った」までは否認し、「原告夫に断られると」から「不貞行為に及んだ」までは認める。
などと書くこともできます。
要は、どの部分に対する認否なのかが分かればそれでいいです。
「その余」をうまく使う
訴状の請求の原因に、だら~と長い文章が書かれていて、だいたいが嘘八百だけどここの部分とここの部分だけは認めざるを得ない、というようなことがよくあります。
そういう場合、認めない(否認する)部分の引用がとても長くなり、めんどうです。
そんなときは、認める部分を先にまとめて指摘して、「○○及び△△との部分は認め、その余は否認する。」などと書きます。「余」は「よ」と読みます。その余、とはそれ以外、ということですね。
逆に、認めない(否認する)部分がわずかで、その他について認める場合は、「○○との部分は否認し、その余は認める。」などと書いてよいのですが、この場合は、ほんとうにその余の全てを認めて間違いないのかをよくよく確認してください。
否認しなくてよいものを間違えて否認してしまっても不利益は生じませんが、否認すべきところを間違えて認めてしまうと不利益が生じる恐れがあります。
否認したときは被告の主張も書く
請求原因事実を否認した場合は、被告としての事実の認識(被告の主張)を書き添える必要があります。否認しっぱなしはナシよ、ということです。例えば、
○月○日との部分は否認する。被告が原告夫と食事に行ったのは△月△日のことである。その日は東京に台風が来ていたので間違いが無い。
のように記載します。「被告が原告夫と食事に行ったのは~」の部分が被告の認識、被告の主張になります。
ただ、この被告の主張が長くなりそうなときは、請求の原因に対する認否のところにはとりあえず「被告の主張は後述する。」と書いておき、別途「被告の主張」という項目を作っていくらでも書けばいいです。
「よって書き」に対する認否
訴状の「請求の原因」の最後の項は、「よって、原告は、被告に対し、~」と記載されているはずです。
これを「よって書き(よってがき)」といいます。
「よって書き」に対しては、「争う」と認否します。お約束ごとだと思って黙って書いてください。
記載例-請求の原因に対する認否
以上を踏まえて、請求の原因に対する記載例を書いてみました。
第2 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1項(原告と被告との婚姻関係)について
不知。
2 請求の原因2項(原告夫と被告との不貞行為)について
第1段落については否認する。
第2段落のうち、「被告は」から、「執拗に誘った」
までは否認し、「原告夫に断られると」から「不貞行為
に及んだ」までは認める。
第3段落のうち、○月○日との部分は否認する。
被告が原告夫と食事に行ったのは△月△日のことである。
その日は東京に台風が来ていたので間違いが無い。
3 請求の原因3項(原告の被った精神的苦痛)について
不知。
4 請求の原因4項(よって書き)について
争う。